婦人帽子 / 大平千鶴子

平成30年度認定

昭和27年生 / 神戸市灘区在住
勤務先:(株)マキシン

帽子のデザインから生地の選定、仕立てまで一貫して仕上げるモディスト。フランスにも認められたオーソリティー

受賞歴

  • 第17回ハットコンテスト特別賞(フランス)
  • 第18回ハットコンテストパブリック賞 第1位(フランス)

木型や型紙ではなく「アレンジバクラム」と呼ばれる芯地を使いこなして自由自在に帽子を作り上げる技術と、彼女ならではのセンスが評価され「Chizuko Oodaira」というブランドも誕生するなど目覚ましい活躍


ファッションデザイナー志望で東京の杉野ドレスメーカー女学院(当時。現・杉野学園ドレスメーカー学院)に入学、師範課程を終えて帽子の勉強をした時に心動かされ、卒業して帽子について技術を学べる道を探した。フランスの帽子デザイナーの巨匠、ジャン・バルテの教えを受けた人に師事し、基礎から応用まで技術を修得、さらに道を極めたくなった。「スクリーンという映画雑誌で見た西洋の女優さんが帽子を見事に着用している写真を見て、こんな帽子を作ることを自分の仕事にしたいと思いました」 。学生時代に神戸へ旅行し、トアロードで「マキシン」の本店を目にしていたことを思い出し、やるならここしかないと意を決してマキシンに手紙を出した。「お会いしましょうと社長から返事を頂けた時、小躍りする気持ちでした」。
大平さんは青森県出身。麦わら帽子と防寒帽がおなじみの故郷がますます遠くなり、2003年神戸に移り住んだ。先輩の帽子マイスターである山口巌に一歩でも近付きたいと仕事に励んだ。オートクチュールの作品は千差万別。オーダー頂いた方の装いをワンランク高める帽子にするため、ふさわしい材料は世界中の産地から厳選する。大平さんの帽子作りは、「アレンジバクラム」と呼ばれる、こより状のペーパーとガーゼ状の布を平織りにし貼り合わせて作る芯地を用いて行う。「木型ではどうしても左右対称の形になりやすく、繊細で立体的な帽子を作る場合はアレンジバクラムの方が適しています」。自由自在にオリジナリティ豊かな帽子を作り出し、帽子職人と言わず芸術性に富んだ「モディスト」と称されるゆえんがここにある。


彼女ならではのセンスを凝縮して完成させる帽子は「Chizuko Oodaira」というマキシンのなかでも格別のブランドに成長した。西洋の映画女優の帽子姿に憧れてファッションデザイナーからハットモディストに転向した大平さんが世界の檜舞台のフランスから絶賛され、チヅコ・オオダイラはマキシンを通じて国際的ブランドにも成長を遂げた。期待を集めての帽子作りはプレッシャーも多いはず。苦しみもあるだろうと思って質問すると返って来た言葉は「帽子づくりが出来ないことが苦しみです」。 喜びは? 「帽子を頭に乗せることでその人の魅力が増し、より豊かな日々を歩んで頂けることです」。 自らの作品を被って街を歩くと、周囲がパリのストリートかと思えるほど絵になる大平さんは帽子を気軽に愛用してくれるファンを増やすことで業界に貢献のほか、彼女の後に続く若い世代が幅広く活躍出来るよう自ら創意工夫した技術を惜しみなく供与している。