ケミカルシューズ / 田中 健治

平成14年度認定

昭和24年生 / 神戸市垂水区在住

輸入自動車、国産自動車の整備全般に精通している。故障診断が複雑な現在の自動車業界にあって、コンピューター技術を駆使し、とくに外車のトラブルシューティング(故障探求)に優れ、その的確な対処ぶりは業界のお婦人靴の素材に関する知識が豊富で、型紙の製作について卓越した技術を持つ。数多くの高級ブランドを手がけた中で、西陣織りの生地を使用した新ブランド「ジャポニカ」を企画開発、靴業界の新境地を開く。

受賞歴

日本の伝統・西陣織りを靴に


有明海の筑後川尻でムツゴロウ釣りをしていた少年が高校卒業後、九州の靴メーカーを経て東京で靴づくりを始めた。そのころ一世を風靡していたミュージシャン愛用のロンドンブーツを手がけ、自らもそれを履いて新宿ゴールデン街にくり出した。「ジャズやロックが好きでしたから、ファッシヨン性の高い靴とかかわる毎日が楽しかったし、センスやテクニックを磨くうえで、勉強にもなりました」 錦ヘビの皮を貼るなど意表をつくアイデアと実行の体験が30年後に「ジャポニカ」の実現につながったと言えなくもない。
昭和55年1月、縁あって神戸の「カワノ」へ。「ずっと紳士靴を作ってきたので婦人靴をこなせられるか心配でしたが、新しいことへの挑戦で意欲をかきたてられましたよ」 世界の靴をリードするイタリアへ研修に出かけ、やがては同国で展示会「ミカム」へ出品するに至る。海を越えてこそ日本の良さがわかる一面もある。


平成10年、河野忠博社長が発案した西陣織りの生地を使った婦人靴の開発と取り組んだ。京都の織元と連絡を密にしながら1年がかりで、強度に欠ける生地を靴になじませる工夫を重ねた。「和装用帯・掛軸や、財布・小物用に作られた織物だから靴になじまないものを生地の補強をしながら、履き心地を良くするのに苦労しました」 生地の裏張り、縫製など困難な問題点を克服し、日本の伝統織物を素材に使った新ブランド「ジャポニカ」が完成した。平成12年度には「グッドデザインひょうご」のニュージャンル部門選定商品として認められたほか、「全国地場産業優秀技術・製品表彰」奨励賞を受けるなど斬新な企画開発力が評価された。「値引きではなく、日本の伝統文化のうえに開かせた技術で勝負を」と国際競争力を高める一つの指針ともなる知識を広くファッション界の後進にも伝えたいと、専門学校などでの指導にも田中さんは熱を入れる。ファッションとのコーディネートが重視される靴がズバリ織物を素材に新ブランドを生み出したことは、足元をしっかりと固めたプロの技と力の織りなす成果だ。