旋盤工 / 足立 誠吾

平成21年度認定

昭和32年生 / 神戸市在勤
勤務地:三菱重工業(株)神戸造船所

加圧水型原子力発電プラントの心臓部である、炉内構造物の機械加工において、高精度の技術力が要求される状況のなか、創意工夫をこらして手腕を発揮。世界最高クラスの性能を持つ装置の実現にも貢献。

受賞歴

  • 普通旋盤1級
  • 職業訓練指導員免許
  • 技能五輪 兵庫県大会 準優勝(旋盤)

物を作る喜びを意欲に、安全、安心の原子の灯を守る


 大がかりな原子力発電プラントにミクロン単位で無傷かどうか、歪みがないかなど要求精度が厳しく、緻密な仕事ぶりが要求される、そんな部品を旋盤工として手がけて来たのが足立誠吾さんだ。出身地の兵庫県青垣町は林業が中心の山間部。高校を卒業して就職する時、「物を作ることに興味を持って三菱重工を選びました」。1975年、三菱重工業神戸造船所の技能訓練生として、機械加工の基本となる汎用旋盤やコンピュータ制御のNC旋盤の技術を学んだのがスタート。翌年配属されたのが、ディーゼル部。旋盤を駆使して舶用ディーゼルエンジンの部品を加工する仕事だった。その後、名古屋にある同社工場で航空機の精密部品を手がけ、再び神戸に戻って、マシニングセンタや研削盤等多数の機械加工設備を使いこなし、原子力発電プラントに行きつく。原子力プラントは百分の一ミリ単位の精度が要求され、誤差が生じると廃棄却処分となるだけでなく、社会不安の材料ともなりかねない性格を持つものだけに、「仕事は神経を使うが、その分やり甲斐がある」と足立さんは語る。技術の習得にかける熱意は並々ならぬものがあり、研修に励んだ末、1977年には技能五輪兵庫県大会で準優勝という実績に輝いた。その腕が加圧水型原子力発電プラントの心臓部ともいうべき炉内構造物の機械加工でいかんなく実力を発揮する。精密さを要求される仕事であるが、足立さんは新規設計された図面を見ただけで、必要な手順、治具、工具を見極めることが出来る。場合によっては、加工が困難な箇所は設計図に変更を加えたり、効率的で安全な工法を立案したりもする。これまでにかかわった原子力発電プラントは、関西はもとより、四国、九州のほか、北海道など広範囲に及ぶ。特筆すべきものとしては、高速増殖炉もんじゅ発電所の建設工事、伊方・玄海1号機炉内構造物取替工事のほか、既設原子力プラントの各種機器取替工事等に携わってきた。


海外向けの原子力プラント工事にも携わり、ミクロン単位の非常に厳しい寸法公差が要求される、高精度の研削加工を成し遂げた。さらに、高エネルギー加速器研究機構の真空ダクトの開発において、世界最高クラスの性能を持つ装置の実現に多大な貢献を果たしたことも特筆すべき。
安全、安心が前提の仕事で失敗が許されない作業の連続で気の休まる暇もないが、常に張りつめた気持ちの一方で、喜びは「やはり、自分の手がけたプラントが正常に稼働して社会の役に立つこと」。1992年に高速増殖炉もんじゅ発電所建設工事の玉成により、事業所の表彰を受けたほか、各事業所表彰は多数におよぶ。近年は自分が培った技術を後輩に伝授し、業界全体の進化に一役も二役も貢献している。青垣町の緑豊かな故郷で物作りに憧れた純粋な気持ちが、今、安全、安心の原子の灯を守る技術集団の要となっている。