椅子張 / 山崎 岩男

平成9年認定

昭和10年生 / 神戸市中央区在住
勤務先:山崎椅子店

各工程すべてをこなす腕が買われて豪華客船「飛鳥」の応接セットや異人館の椅子の修理を手がける。

受賞歴

下積み人生の意地と熱意


阪神間に15軒ほどあった椅子張り専門業者も既製品の椅子が大量生産されるに従い激減した。そんななかで頑なにこの仕事を続けるのは「木組みのしっかりした良質の椅子を捨て去るのが惜しいから。スプリングや布をやり換えて再び新しい命を吹き込むことがやり甲斐だからです。」
広島県尾道の出身。「いとこが神戸で張り屋をしてまして、それを頼って来ました。」欧風家具の老舗・伊藤家具店で修行を積み、昭和39年に独立した。「くたびれた椅子を元の姿に戻すのが仕事。下地にスプリングを取り付けて、詰め物をして上張りしますが、目に見えない部分にしっかり手を入れておかないと長持ちしないし、座り心地も悪い」とコツを語る。


時代の流れで“ゴム” と称する化学製品のマットを詰め物に使うケースが多くなったが、腰掛けて楽なのはやはりスプリングだという。「ゴムより反発力が優れ、座った時の安定感が得られるからです。」とはいうものの、スプリングの固さの見分け方が難しく、「何年やっても、もっとああすれば良かったと反省ばかりです。」次こそ満足のいくものをという意欲がいつしか椅子張りの名人に。
木枠の組立から完成まで一環して手がけられる職人が少なくなったなかで、各工程すべてに高い技術を持ち、その腕が買われて豪華客船「飛鳥」のスイートルームの応接セットを手がけたほか「うろこの家」や「英国館」など異人館の古い椅子の修理も任された。
自分が手がけた椅子の中に製作年月日と銘を記入するものがある。25年ぶりにその椅子が張り換えのために帰って来たのには目頭が熱くなった。下積み人生そのものだが、意地も熱意も十分な山崎さんだ。